2025.10.24

住宅には省エネ性や断熱性を表すランク付けとして「等級」があります。この等級の基準自体が見直される予定になっています。今後の新築や住宅業界の性能・基準はどのような方向にいくのか?これから新築を建てる方にもわかりやすいように解説します。
今回は、新築を建てる際に大事な性能の1つである、断熱性・省エネ性の今後について解説します。
今、住宅業界は法改正などを経て、大きな変化を迎えようとしています。
そんな中、新築を考える方は、なにを基準に住宅会社などを選べばいいのか?
さらに将来的な視点をふまえた家づくりをするために、今回は少し専門的な内容ではありつつも、みなさんにとっても必要な情報をお伝えしていきます。
それでは、今回のコラムの要点から見ていきましょう。
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・断熱性と省エネ性は、一般消費者にもわかりやすいよう等級でレベル分けされているものの、省エネ性は “最高等級” の家が新築では8割以上となっている
・2025年4月には、一般住宅でも断熱性と省エネ性の計算が必須となった法改正がありましたが、法律で求められている断熱性・省エネ性は平成28年の基準のまま
・2030年に、国はZEH水準の断熱性・省エネ性を義務化の基準としており、現在の等級も見直しになる可能性が高い
・断熱性は現在の等級5・6・7が、2030年以降の新断熱基準の等級1・2・3となり、省エネ性も同じように3段階のグレードに見直される
・ZEH水準や長期優良住宅仕様の新築は、もはや「普通」になりつつあり、工務店ごとの性能差がなくなりつつある
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1. 住宅の性能を表す等級とは
出典:断熱等性能等級 | YKK AP株式会社
まずは、今回のコラムの内容のメインになっている「等級」とはどんなものなのか?を簡単に解説します。
住宅の性能を等級というグレードに分けることで、はじめて家を購入する方でもわかりやすいようになっています。
上図では、断熱性と省エネ性の現行の基準があり、断熱性は7段階、省エネ性は6段階という形にわけられています。
それぞれ、等級が上がるほど、性能が高いことを表します。
※断熱性であれば、家の保温性が高い
※省エネ性であれば、冷暖房や給湯などの設備機器でエコ性能が高い機器が使われている
1-1. 現在の新築の「一般的なレベル」
これだけたくさんの等級があると、「だいたいみんなどれくらいが平均なの?」「どこを超えていたらいいの?」と少し迷ってしまいます。
結論からお伝えすると、断熱性能は等級5、省エネ性は等級6がもっとも多いランクです。
国土交通省の資料では、断熱等級5以上・省エネ等級6を取得している割合は、戸建住宅では約86%(令和5年度実績)としています。※建設住宅性能評価を受けた新築住宅が分母となる
断熱等級は6および等級7があるので、その内訳は同資料では提示されていませんが、富山の市場全体をみても、今は等級5の仕様がもっとも多いのではないでしょうか。
言い換えると「ZEH水準」および「長期優良住宅」に該当するグレードになっており、ひと昔前は「ちょっとイイ家」だったものが急激に「普通」になりつつあります。
1-2. 背景は法律の改正
急激に住宅の性能が市場全体でアップしてきた背景には、2025年4月の省エネ法の改正があります。
2025年以前にも断熱性や省エネ性の計算や等級はありましたが、一般住宅でも計算が「必須」となったことで、新築市場全体で “曖昧” になっていた状況がなくなりました。
ただし、断熱性・省エネ性の計算が必須となったものの、新築の基準として守るべき基準は、断熱等級4・省エネ等級4となっています。
法律で求められている断熱性・省エネ性は、実は平成28年に定められた「少し前の基準」のままになっていますが、実は「義務化された少し前の基準」にしか適合していない家の方が少なくなっている現状です。
YUIでも、数年前から2030年基準であるZEH水準を標準的な設計としていますが、もはやZEH水準の家や長期優良住宅は「普通の家」となりつつあります。
2. 住宅性能表示制度の見直し
国もこのような状況を受けて、現在の等級制度を2030年度までをめどに見直そうとしています。
改正ポイントは主に2つあり、1つ目が省エネ等級の新設、そして断熱等級と省エネ等級自体の見直しです。
なお、「住宅性能表示制度」とは、国土交通省が定めた品確法に基づく制度で、今回紹介している断熱性などに加えて、耐震性などの住宅性能を、共通の基準で数値や等級として評価し、第三者機関が認定する仕組みのことです。
今回、紹介している等級は、この制度に基づいた計算で示される等級のことになります。
2-1. 省エネ等級はさらにグレードが高い等級設定
出典:国土交通省)住宅性能表示制度の見直しについて
まず1つ目は、上図にあるように、省エネ等級が新設されます。
今までは等級6(省エネ基準より20%以上、省エネ性が高い)の上は、それぞれ以下のような基準になっています。
・等級7:省エネ基準より30%以上、省エネ性が高い
・等級8:省エネ基準より35%以上、省エネ性が高い
2025年に注目されている「子育てグリーン住宅支援事業」という補助金制度がありますが、ここで最高額の補助金がもらえる「GX志向型住宅」は、この等級8に該当している住宅になります。
もともと補助金は国が主導となっており、性能の高い家を建てることで社会全体のCO2排出量を削減していくことが目的ですが、このような基準と紐づいているわけです。
また、富山は地域区分では「5」という地域で、東京や大阪に比べて「やや寒い地域」という位置付けですが、寒い地域では暖房費や給湯費がかかること等も加味されて計算されます。
さらに、この最高等級を取っていくことを考えると、どこの住宅会社で建てるかは関係なく、選べる住宅の設備仕様などが限定されてくる側面もありますので、一概に「最高等級が一番いい」とも言いきれない点が建築にはあります。
2-2. 2030年以降は3段階に見直し予定
出典:国土交通省)住宅性能表示制度の見直しについて
2つ目は、同国交省の資料内で紹介されていますが、2030年にZEH水準が「義務化基準」となることを受け、断熱等級および省エネ等級が3段階に見直される予定になっています。
今の基準でも等級1や等級2というのは、昭和の頃の基準になっており、有名無実化している現状もあることから2030年の義務化基準引き上げに伴い見直されます。
つまり現在の断熱等級も7段階ありますが、これまでは「ちょっとイイ家」として7段階中、5段階目という感覚でしたが、先述した現状を踏まえて時代に合わなくなってきたのです。
断熱性は現在の等級5・6・7が、2030年以降の新断熱基準の等級1・2・3となります。
そして省エネ性も同じように、3段階のグレードに見直され、現在のZEH水準が義務化基準である等級1となるわけです。
3. 等級1でも十分!?
ここで、今までは7段階中の5番目と聞くと、なにやら平均より少し上のような感覚でしたが、2030年以降は同じ性能でも3段階の中の “一番下” となってしまうわけです。
なんとなく、一番下でいいの?と思いがちですが、ひと昔前と夏が多少暑くなっているとは言え、気候がいきなり北海道の冬のようになったわけでもありません。
つまり、等級1でも国が長期優良住宅として「目指していた基準」なので、特に心配する必要はありません。
さらに高い断熱性能や省エネ性能にグレードアップすることも可能ですが、その分のコストおよび効果については冷静に見ることをおすすめします。
3-1. 今後は性能差がなくなっていく!?
すでにZEH水準や長期優良住宅仕様の新築は、もはや「普通」になりつつある現状をお伝えしました。
つまり、工務店ごとの「住宅性能」の差がなくなりつつあるのです。
もちろん性能に特化した会社もいるわけですが、他の住宅会社でもその性能値まで上げることは可能です(特殊な工法で、他の住宅会社ができないケースもある)
そのため、必要とされる住宅性能を満たしていることを確認すれば、あとは建築費用・デザイン・間取りの提案といった、住宅で本来検討すべきポイントを丁寧に比較検討できる時代が、すぐそこまで来ているのではないでしょうか。








